サルコペニアって何でしょう
最近サルコペニアという言葉を聞いたことはあるでしょうか。サルコペニアとは加齢や活動量低下、低栄養、疾患が原因となって筋力低下や歩行速度などの身体機能の低下のことをいいます。
では、サルコペニアに陥らないためにはどのようにしたらいいのでしょう。対策としては、適切な栄養管理と運動ということになるのですが、その内容、タイミングが重要なポイントとなります。この記事ではそれらについて述べていきたいと思います。
サルコペニアとは
サルコペニアは、「転倒、骨折、身体機能障害および死亡などの不良の転帰の増加に関連しうる進行性および全身性に生じる骨格筋疾患」と定義されています。つまり、加齢や活動量低下、低栄養、疾患によって筋力低下や筋肉量の低下、歩行速度などの身体機能の低下した状態を表します。
その対応は、原因によて異なりますので原因別の対応を詳しく述べていきます。
サルコペニアの対応
サルコペニアの原因別の対応を述べていく前に、具体的にサルコペニアの状態とはどのように判断されるのかについて簡単に説明します。設備の整った医療施設などではより詳細な評価方法があるのですが、ここでは簡便なスクリーニング方法について説明したいと思います。
一つめの項目は筋肉量です。これは下腿周径で判断します。ふくらはぎの一番太い部分の周径が男性で34cm未満、女性で33cm未満の場合次の段階に進みます。
二つ目の項目は筋力です。これは握力で判断します。左右2回ずつ測定して、最大値が男性で28kg未満、女性で18kg未満であれば筋力低下ありと判定します。あるいは、5回椅子立ち上がりテストで身体機能をみることも可能です。高さが40cm前後の椅子から直立位となり座位に戻ることを繰り返して、5回目に直立位になるまでに要する時間が12秒以上かかると身体機能低下ありと判断します。
この2つの項目を満たすとサルコピニアの疑いありと判断されます。握力は握力計がなければ測定できませんが、それ以外は比較的ご自身でも測定できますので、最近歩くのが遅くなったなど自覚がある方は試してみてはいかがでしょう。
加齢
最も有効な対応は、レジスタンストレーニングです。レジスタンストレーニングとは、筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動で、いわゆる筋力トレーニングを指します。必須アミノ酸を中心とする栄養介入を加えるとサルコピニアの改善により有効とされています。
活動
不活動、安静臥床はよる廃用性筋委縮は、廃用症候群の一部でありはサルコペニアの原因となります。安静臥床というと病院などへの入院を思い浮かべるかもしれませんが、予備力の少ない高齢者でほとんど外出しない生活をしていると、風邪などにより2、3日寝込んだなど、ごく短期間の安静でも廃用症候群を生じます。また、容易に低栄養の状態になる危険がありますので、こちらにも注意が必要です。この場合は、不要な安静臥床を避け、早期離床、早期経口摂取を行い、廃用性筋萎縮を避けることが重要です。
栄養
飢餓状態からの栄養改善を目指す場合、1日エネルギー消費量に加えて、200~750kcalのエネルギー蓄積量が必要となります。計算上は7,000~7,500kcal程度のエネルギーバランスをプラスにすると体重が1kg増加します。ここでいう飢餓とはエネルギー摂取量が基礎代謝以下というような栄養管理が長期間続いたような状態で、日本でも神経性食指不振症の女性などで認められます。
飢餓で栄養状態が悪化している場合には、安静臥床にしないで機能維持目的に関節可動域運動やストレッチ、座位運動などの軽負荷の運動、最大筋力の40%以下の軽負荷のレジスタンストレーニングを行います。
侵襲
侵襲とは、手術、外傷、急性感染症など生体を傷つける刺激のことを指します。侵襲は傷害期、異化期、同化期に分けられます。傷害期は期間は短く、エネルギー消費量は低下します。
異化期には筋肉のたんぱく質や脂肪の異化(糖質、たんぱく質、脂肪を分解してエネルギーを得ること)で治癒過程のエネルギーを供給されます。侵襲前の栄養状態が悪いほど機能予後、生命予後が不良となります。この時期には、レジスタンストレーニングを行っても筋たんぱく質の増加は難しいです。機能維持目的で軽負荷の運動を行います。
高度の侵襲時は多量のエネルギーやたんぱく質を投与しても異化は一部しか防げません。余分なエネルギーは脂肪に変換されてしまいます。そのため、過不足のないエネルギーやたんぱく質の投与が求められます。
同化期には生体内でエネルギーを用いて筋肉など生体構成成分を合成します。この時期には、適切な栄養管理と運動を併用します。サルコペニアの改善を目標に、栄養改善を目指した栄養管理とレジスタンストレーニングを行います。1日のエネルギー消費量にプラスして200~750kcalのエネルギー蓄積量を目安とします。
栄養と運動のタイミング
身体機能は1日の中でリズムがあります。このリズムに合わせて運動を行うことでより運動の効果を上げることができます。起床時は、覚醒時間の中でも身体機能が最も低く運動にはあまり適しません。午後から夕方にかけては、筋力、酸素摂取量、肺活量がピークとなりトレーニングの効果が現れやすいです。
起床時は前日の夕食からの時間経過により、肝臓や筋肉のグリコーゲンが減少しています。十分に朝食を摂取しないと午前中の持久力が低下し疲れやすくなります。朝食摂取により体温が上昇し活動しやすくなります。体温上昇にはたんぱく質の摂取が重要です。
食事直後は消化吸収などで内臓の血流量が増えるため運動には適しません。食事内容によりことなりますが、食後1~3時間は運動を控えることが望ましいです。
1日に必要なエネルギー量
まず、身体活動レベルを日常生活や運動などの活動量に応じて3つの段階に分けます。
高い | 立ち仕事や移動が多い仕事、または活発な運動習慣を持っている人 |
普通 | 座り仕事が中心だが、軽い運動や散歩などをする人 |
低い | 一日のうち、座っていることがほとんどの人 |
性別・年齢・身体活動量によって1日に必要なエネルギー量が異なります。活動量の少ない成人女性の場合は、1,400~2,000kcal、男性は2,000±200kcal程度です。
男性 | 女性 | ||||
18~69歳 | 70歳以上 | 18~69歳 | 70歳以上 | ||
身体活動量 | 低い | 2,200±200kcal | 1,400~2,000kcal | 1,400~2,000kcal | 1,400~2,000kcal |
普通以上 | 2,400~3,000kcal | 2,200±200kcal | 2,200±200kcal | 1,400~2,000kcal |
サルコペニアの原因とその対応については以上となります。次回はサルコペニアの改善に有効な食事について説明したいと思います。