ケアを拒否されてしまった…そのとき”自分を責めてしまう”あなたへ―――思考のクセと向き合う方法

はじめに 

 訪問看護ステーションで働く医療職の皆さん、日々の支援、本当にお疲れさまです。
 利用者さん宅に訪問し、ケアやリハビリを行おうとしたとき、利用者さんから「今日はやりたくない」と拒否され、 「自分の関わり方が悪かったのかも…」 と落ち込んだ経験はありませんか? あるいは 「私は悪くない!」 と感じることもあるかもしれませんね。
 これは“自然な心の働き”でもありますが、過度になると「個人化」や「セルフサービングバイアス」という心理的な傾向が関わっているかもしれません。
医療職の資質として、この二つの心理反応の見極めができることはとても大切です。 今回は、こうした思考のクセを見極めながら、心の健康を守るための "5つのステップ"と "3つの対処法"をご紹介します。

個人化とセルフサービングバイアスの違いとは?

項目個人化(CBTでの認知のゆがみ)セルフサービングバイアス(社会心理学)
帰属の傾向なんでも自分のせいにする成功→自分、失敗→他人や状況のせい
感情落ち込み、罪悪感、自責感自己肯定、防衛、責任回避
心理的影響自己評価の低下、燃え尽き一時的な安心感、自信の維持

 どちらも「物事の原因をどこに求めるか(=原因帰属)のクセですが、

  • 個人化は「自分を責めすぎている
  • セルフサービングバイアスは「自分を守ることに偏りすぎている

という違いがあります。

チェックリストで見極めよう!

 以下のチェックリストを使って、自分の思考を見つめ直してみましょう。

  1. すぐに「自分が悪かった」と思った → 【個人化】の傾向
  2. 強い罪悪感や無力感を感じた → 【個人化】
  3. まず「自分は悪くない、自分のせいじゃない」と思った → 【セルフサービングバイアス】の傾向(例:「自分は全く悪くない。あの人はいつも協力的じゃない」など)
  4. 上手くいったときは「自分の努力」と感じる → 【セルフサービングバイアス】
  5. 自分以外の原因を考える余裕がない → 【どちらも可能性あり】

フローチャートで思考を整理し、思考のパターンに気づこう!

※注釈

 本フローチャートは、個人化とセルフサービングバイアスに関する代表的な思考パターンを簡略化・模式化したものです。あなたの心の在り方に気づくヒントを得るためのひとつのツールに過ぎません。すべての心理反応や思考の流れを網羅するものではなく、実際にはより複雑で多様な心の動きや葛藤が存在します。もし心に苦しさを感じるようなことがあれば、どうか心理の専門職にご相談ください。

5つのステップ:個人化(認知のゆがみ)への対処法

  1. 【気づく】思考のパターンに気づこう 「また自分を責めてるな」と、まずは気づくことが変化の第一歩。
  2. 【書き出す】自動思考を言語化 「○○された→自分が悪い」と感じたときは、紙やアプリに思考を書き出してみましょう。
  3. 【見直す】根拠と反証を探す
    • 本当に自分のせい?
    • 他の要因(利用者の体調、天候、家族関係など)は?
  4. 【言い換える】バランスのとれた考えに 「今日は体調が悪かったのかも。私の関わり方だけが原因ではない」など、少し柔らかい言葉に置き換えてみましょう。
  5. 【つながる】仲間と共有・相談する ひとりで抱えず、チームや先輩と感情を共有しましょう。「自分だけじゃない」と気づけることが支えになります。

3つの対処法:セルフサービングバイアスへの注意と対処法

 セルフサービングバイアスは、自分を守る働きがある一方で以下のようなリスクもあります。

  • フィードバックを受け入れにくくなる
  • 成長の機会を逃す
  • 周囲との関係性にズレを生む
  • 問題解決につながりにくい

自分の反応に疑問をもつ

 「本当に状況のせいだけだった?」「私にもできる工夫はなかった?」と問い直す視点を持ちましょう。

建設的なフィードバックを歓迎する

 他者の意見を拒絶せず、「次に活かせるヒント」として受け取るクセをつけることが大切です。

チーム内で振り返りの時間を持つ

 失敗やうまくいかなかった事例を、他の職員と一緒に振り返ることは、偏った思考を修正する助けになります。

おわりに

 医療職として利用者さんと真剣に向き合うほど、「自分に責任があるのでは」と感じやすいものです。かといって言い訳的になりすぎても成長の機会を逃してしまう…かもしれないですよね。

 でも、本当に大切なのは―――

 目の前の現実や状況を、できるだけそのまま、客観的に見つめること。

 極端な考えにとらわれすぎたり、感情に巻き込まれすぎたりすると、冷静な判断が難しくなってしまいます。 そうならないためにも、自分の「考え方のクセ(=認知のゆがみ)」に気づき、バランスを取り直す力がとても大切です。
 これは、プロとしての大事なスキルのひとつ。 「こころのセルフケア」も、専門職に必要な力なのです。
 このブログをきっかけに、ぜひあなた自身の心のケアにも、やさしく目を向けてみてくださいね。

藤原 望(作業療法士/公認心理師)