気軽に運動を始めよう~まずはストレッチから

 ストレッチとは筋を伸ばす柔軟体操のことです。スペースを取りませんし特別な道具も必要ないため、自宅で気軽に始める運動として最適だと思います。ストレッチには身体をリラックスさせたり疲れをとったり、体調を整える等の効果が期待されます。しかし、やり方を間違えるとその効果を十分に得ることができません。そこで今回はストレッチの効果や注意点について解説していきます。

ストレッチの効果

 ストレッチには、血行を促進して新陳代謝を盛んにし、筋肉などを柔軟にする効果があります。また、筋肉や腱を伸ばすことで、気分を爽快にしリラックスさせたり、疲労回復にも効果的です。

 ここでは、ストレッチの主な目標である柔軟性の向上と傷害の予防について解説します。

柔軟性の向上

 ストレッチには、筋の柔軟性を向上させ関節可動域を拡大する効果があります。日常生活での活動性が低下し寝ている時間や座っている時間が長くなるなど同一姿勢をとる時間が長くなると、一部の筋の柔軟性が失われ関節可動域の制限や腰痛につながります。ストレッチを行うことで筋の柔軟性が向上すれば、関節可動域が拡大し動作を効率的に行ったり、姿勢が改善したりすることが期待できます。

傷害の予防

 準備運動として運動の前にストレッチを行うことは、徐々に筋の温度や心拍数を上げるウォーミングアップの効果があります。20秒未満の短い時間持続的に筋を伸ばすストレッチや反動を伴わず動きの中で徐々に筋を伸ばしていくことで傷害の予防に効果的です。

 また、運動後に30分ほど時間をかけて一つ一つの関節を20秒以上の時間持続的に伸ばしていくストレッチを行うことで、徐々に心拍数を下げ副交感神経が優位になる効果があります。これらによって疲労回復やリラクゼーションが期待できます。

ストレッチのメカニズム

 ストレッチによって筋の柔軟性が向上するメカニズムは、伸張反射の感受性低下と自原抑制によって説明されます。伸張反射とは、筋線維の中にある筋紡錘という感覚器が筋の伸張刺激(筋を引き延ばす刺激)に反応して、その筋を収縮させる反射です。筋を一定時間持続的に伸張させることでこの伸張反射が抑制され筋の柔軟性が向上します。もう一つの自原抑制とは、筋が骨に付着する部位で腱に移行する部分にあるゴルジ腱器官という感覚器が関わる反射です。ゴルジ腱器官は筋の張力(筋を引き延ばす力)に反応しその筋の収縮を抑制します。これは筋が一定以上に引き延ばされて損傷することを防ぐための反射ですが、筋を一定時間持続的に伸張されることで、その筋の収縮を抑制し柔軟性が向上します。これらは、運動の前後で行う準備体操や整理体操で行うストレッチによってもたらさせる即時的な効果です。

 長期間のストレッチによって起こる変化は上記のメカニズムによるものに加え、筋や靱帯の弾性要素が組織的科学的変化を起こしたり、筋節が増え筋肉が長くなったりすることによりより長期的な関節可動域の拡大という効果が得られます。また、長期的にストレッチを行うことで筋力が向上するという説もあります。

伸張反射

ストレッチの注意点

 ストレッチを行う際の注意点を解説します。ストレッチで十分な効果を得るには、その目的に応じて方法を選択することが重要です。ウォーミングアップを目的とするならば、動きの中で筋を伸ばす動的ストレッチや30秒未満の静的ストレッチ(動きや反動を伴わず筋を持続的に伸ばす)が適しています。運動前に筋を30秒以上伸張するような持続的ストレッチを行うと筋力を低下させパフォーマンスを低下させると言われています。リラクゼーションや疲労回復、長期的な関節可動域の拡大を目的とするならば、30秒以上の静的ストレッチが適しています。

 以下にストレッチ全般に共通する注意点を挙げていきます。

呼吸をとめない

 ストレッチを行っている間は呼吸をとめないようにしましょう。ゆっくり口から息を吐きながら筋を伸ばしていき、その後も自然に呼吸を続けてください。呼吸をとめると身体が緊張し筋が硬くなるため、筋が弛緩させることができません。また、呼吸をとめることで血圧が上昇するなど身体に負担をかけることもあります。

反動をつけない

 ストレッチは勢いや反動をつけずに行いましょう。筋は急激に引き伸ばすと、筋線維の中にある筋紡錘が反応しその筋を収縮させる伸張反射が起こります。伸張反射により筋が収縮するため、筋の柔軟性を向上するという目的とは相反することが起こってしまいます。

無理をしない

 ストレッチは気持ちよく伸ばす範囲内で行いましょう。痛みを伴うほどのオーバーストレッチを行うと、筋が損傷を防ぐために反射的に収縮し本来の目的である柔軟性の向上という効果が得られます。それどころか筋や靱帯を傷めてしまいかねません。ストレッチは気持ちいい範囲にとどめ無理をしないようにしてください。

伸ばす部位を意識する

 ストレッチを行う際には伸ばす部位を意識することで、その効果をより高めることができます。

 ストレッチは、広いスペースも特別な道具も必要とせずどこでも気軽に実施できる運動です。これまで運動習慣のない方にも気軽に始められる運動だと思います。筋力運動や有酸素運動と併せて行うことでより効果が期待できますが、まずはストレッチから始めてもみてはいかがでしょう。

 次回は部位別のストレッチの方法を解説していきます。