高齢でもおすすめ! 筋力トレーニング
もう歳だし、筋トレなんかやっても筋肉はつかないよ。高齢者のリハビリに関わっていると、そんなことを言われることがよくあります。そのようなとき私は、そんなことないですよ、高齢者でも適切な負荷で筋力トレーニングを継続することで筋肉はつきますし筋力アップしますよと声を大にして言います。もちろん、高齢者は若年者に比べて過度なトレーニングが、病気やケガ、関節の痛みにつながりやすく負荷には注意が必要です。今日はそんなお話をしたいと思います。
加齢による身体の変化
人の身体は、加齢によりあらゆる機能が直線的に低下していきます。ここでは運動にかかわる身体の変化について挙げていきます。 機能によってその低下のスピードは様々です。腎機能や肺機能は加齢に伴い急速に低下しますが、神経伝達速度や基礎代謝率はゆっくり低下すると言われています。
除脂肪体重の減少
加齢により脂肪以外の身体構成成分が減少します。筋肉量が減少するため、加齢に伴って基礎代謝率が低下します。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
年齢 | 基礎代謝基準値 (kcal/kg/日) | 参照体重 (kg) | 基礎代謝量 (kcal/日) | 基礎代謝基準値 (kcal/kg/日) | 参照体重 (kg) | 基礎代謝量 (kcal/日) |
12-14歳 | 31.0 | 49.0 | 1520 | 29.6 | 47.5 | 1410 |
15-17歳 | 27.0 | 59.7 | 1610 | 25.3 | 51.9 | 1310 |
18-29歳 | 24.0 | 63.2 | 1520 | 22.1 | 50.0 | 1110 |
30-49歳 | 22.3 | 68.5 | 1530 | 21.7 | 53.1 | 1150 |
50-69歳 | 21.5 | 65.3 | 1400 | 20.7 | 53.0 | 1100 |
70歳以上 | 21.5 | 60.0 | 1290 | 20.7 | 49.5 | 1020 |
(日本人の基礎代謝基準値 厚生労働省 日本人の食事摂取基準 2015年度版 第一出版を元に作成)
体脂肪率の増加
加齢に伴い、徐脂肪体重は減少する一方脂肪量は増加します。その結果体脂肪率が増加することになります。しかし、70歳以上では脂肪量も減少していきます。この体脂肪率の増加により顕著となるのは見た目の変化です。加齢とともに体幹部への脂肪の分布(内臓脂肪を含む)が増えていきます。
血漿アルブミン量の減少
加齢による腎機能や肝機能の低下により、血漿アルブミン量が低下します。これに、食事量の減少によるたんぱく質摂取量減少が加わると、血漿アルブミン量の減少はより顕著となります。
血漿アルブミン量が減少すると、血管内の血液への浸透圧が低下し血管内の水分が血管外に移動するため血管外の組織に水がたまり浮腫が起こりやすくなります。また、アルブミンは様々な微量元素や脂肪酸、ホルモンと結合し、体が必要とする部位へ運搬します。アルブミンの低下により体が必要とする部位へ運搬されにくくなると、代謝や内分泌のバランスが崩れ免疫低下などの全身の不調につながる可能性があります。
脳血流量の低下
全般的に脳血流量は低下しますが、前頭葉において著明です。前頭葉は推理・判断・想像・想像力を司どっており、前頭葉とくに前頭前野は社会生活において重要な役割を果たしています。前頭葉の機能低下は、思考力や集中力の低下、無関心や医用区の低下を生じます。
性ホルモンの分泌量の低下
男性ホルモンのテストステロンは、20歳ごろをピークに緩やかに低下します。40歳から60歳ころに家庭や職場のストレスを受ける人が多く、環境変化やストレスをきっかけに突然テストステロンが急激に低下して、自律神経失調症のような不定愁訴を訴えることもあります。
女性ホルモンでは、特に卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンは50歳ごろに急激に分泌量が低下します。エストロゲンが欠乏すると、ほてりや心悸亢進や抑うつ症状などの「更年期障害」がみられます。
コルチゾールの反応性低下
コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種です。主な働きは肝臓での糖の新生、筋肉でのたんぱく質代謝、脂肪組織での脂肪の分解などの代謝の促進、抗炎症および免疫抑制などです。加齢によってコルチゾールの分泌量は変わらない、あるいは軽度に増加すると言われていますが、その反応性は低下します。コルチゾールは精神的、身体的ストレスで分泌が増大し、加齢とともに増大後の正常化に時間がかかるようになります。
コルチコイドが慢性的に分泌過剰になると、筋力・筋肉量の低下、動脈硬化の進行、骨粗しょう症の悪化、免疫力の低下、記憶力や認知機能の衰えといった問題を引き起こす可能性があります。
筋肉トレーニングの効果
高齢者の筋力トレーニングには以下のような効果が期待できます。
筋力増強
適切な負荷で筋力トレーニングを行うことで筋力増強の効果が得られます。下肢や体幹の身体を支える抗重力筋の筋力増強により、姿勢の改善や転倒予防を図ることができます。
骨格筋量の増加
筋力トレーニングによって、筋肉は太くなり、筋肉量が増大します。筋肉量が増えることで基礎代謝の向上、血流の改善が期待できます。
体脂肪の減少
筋肉量の増加によって基礎代謝が向上します。その結果、脂肪の燃焼しやすい身体となります。筋力トレーニングにより中性脂肪は、副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)や成長ホルモンの働きで遊離脂肪酸とグリセロールに分解されます。
また、筋力トレーニングにより乳酸などの代謝産物が蓄積すると筋肉の回復のために成長ホルモンが分泌されます。成長ホルモンによって、運動後も中性脂肪の分解が促されることになります。つまり、筋力トレーニングによって、体脂肪の燃焼しやすい状態をつくることができます。
インスリン抵抗性・糖代謝の改善
筋力トレーニングはインスリン抵抗性、糖代謝を改善し、糖代謝異常の予防が期待できます。また、筋力トレーニングによって筋肉が大量の酸素を必要とするため、十分に血液を送るため血管が広がり毛細血管が発達します。毛細血管の発達は血圧や血流の改善に良い影響があります。これらは、生活習慣病の予防・改善の効果が期待できます。
腰痛・膝痛の改善
筋力トレーニングによって筋力が向上し、筋肉量が増えることによって、姿勢の改善や関節への負担が減り、腰痛や膝痛の軽減につながります。
以前の記事「サルコペニアって何でしょう」でも述べたように加齢によるサルコペニアには筋力トレーニングが有効です。また、健康増進には筋力トレーニングとウォーキングなどの有酸素運動と組み合わせることが効果的です。次回はおすすめの筋力トレーニングを紹介します。