願いを”実現”にかえるリハビリ―自費サービスが広げる、新しい可能性―

 令和8年、花の便りを待つ佳日。私たちアプスルは、とあるご夫婦のご旅行のお手伝いをさせて頂く機会に恵まれました。
 行き先は山口県は下関。長年のご友人たちと共に、大好きなフク料理で宴会をしたい。これはご夫婦の大切な恒例行事。その思いに寄り添うべく、この度、作業療法士のフジワラがお供させて頂きました。

 お二人は大変仲睦まじいご夫婦です。奥さまは左半身にまひがあり、左側に気づきにくいところがあります。それでも「できることは自分で」と前向きで、退院直後から訪問リハビリを一緒に続けてきました。

 今回は、長年の仲間との恒例行事――山口・下関でのフグの会食に参加するための一泊二日の旅です。そしてもう一つ、「フジワラさんに本場の美味しいフグ食べさせたるわ!」という、お二人のあたたかな心意気も、この旅の大切な目的でした。

 一日目の朝。責任感強めの私は、なんとなく寝苦しく、眠りは浅め。朝の気温を体感してから服装を決めます。季節の変わり目ですから、脱ぎ着しやすく、携帯しやすいウェアでないといけません。9時45分、待ち合わせ場所で合流し、まずはご自宅へ。お部屋までお迎えに上がり、私の付き添いで階下へ。足取りを確かめながら、タクシーで新大阪へ向かいます。期待と緊張に、胸が高鳴ります。

 主な移動手段は車椅子を選択。新大阪駅は人が多く、まっすぐ進むのもコツがいります。フードコートで腹ごしらえ。選んだのは「山本のネギ焼き」。食事やトイレの介助はご主人が自然に手を差し伸べられ、私は主に移動をお手伝いしました。

 新幹線は車椅子のまま乗車。新山口での乗り換え時、ホームと車両のわずかな段差に不安がよぎりました。奥さまはちょっと怖かった様子なので、以降の鉄道の乗り降りは車椅子から降りて徒歩で行うことに。

 乗り換えたのは、期間限定で運行中のキティちゃん新幹線。5月17日までの特別仕様車で、車内でも奥さまの大好きなキティちゃんがお出迎え。新下関からは車に分乗。車への乗り込みは、動かしやすい側から入るとぐっと楽になります。ちょっとした工夫が、安心につながります。

 そしていよいよ夕食です。知る人ぞ知る名店、ふく処さかいさん。しかし宴会場はビルの3階、エレベーターはありません。2階の踊り場で一呼吸。上りは体力を使います。「あと少しですよ」と励ましながら、一段一段進みます。

 席に着くと、待ちに待ったフクの会食。フク刺しの透明感、唐揚げの香ばしさ、鍋の湯気。「しっかり食べや!」のお言葉に、遠慮の気持ちもどこへやら。笑い声が広がり、長年の友情が行き交います。素晴らしいご馳走でしたが、その輪の中にご一緒できたことが、何よりの喜びでした。

 宴も竹縄の頃、さあ帰るか、と階段に向かいます。教科書通りの介助法ではうまくいかず、正面を向き、動かしやすい側から降りたほうが安定しました。階段の登り降りは、身体機能だけでなく、慣れや恐怖心などの心理的な要素が大きく影響します。目でしっかり確認できることが安心につながるようです。現場での工夫と人手の確保。その両方がそろっていたからこそ、安全に乗り越えられたと実感しました。

 二日目は7時半から朝食です。スプーンがあると食べやすい、と気づく場面もありました。

 復路は在来線で下関から小倉へ移動。その後、新幹線のグリーン車で新大阪へ向かいました。新大阪での下車時、一瞬落ち着きを失いかけましたが、「大丈夫、こっちです、降りましょう」とお伝えすると、呼吸が合いました。いつもリハビリの屋外歩行で繰り返していたやりとりです。

 昼食はビフテキ丼。旅の締めくくりに、しっかりエネルギーを補給しました。帰りは新大阪名物、ジャンボタクシー。ワンボックスカーは座席が高く、乗り込むにはひと工夫が必要です。足の位置、手の支え、タイミングを合わせて、無事に着席。

 最後は、いつもリハビリで練習している団地の階段です。見慣れた景色に、私もほっとします。一段ずつ確かめながら上がり、無事に帰宅しました。

 ささやかな挑戦と達成、そしてご夫婦のあたたかな思いが詰まった、忘れられない旅となりました。

(作業療法士/公認心理師 フジワラ)